日々の戒め(254)



人間は、己の内なる善への素質をさらに発展させるようにしなければならない。天はその素質を完成品としては与えていない。それはあくまで素質にすぎない。自らより善き人となること−人間はこの目的に向かって精進し、この目的を達成するようにしなければならない。
(カント)

日々の戒め(253)



代議制による支配の目的は、大きな社会正義を実現することではなくて、人々が悪しき支配に服従しながら、それに不平を唱える権利がないようにすることである。
(トルストイ)

日々の戒め(252)



 一年のいろんな季節がそれぞれにその特徴を展開するように、、あらゆる者の行為が彼らをおのずから自分にふさわしい状態に導いてゆく。
 侮辱を受けた者は安らかに眠り、喜びの中に目覚め、喜びの中に暮らすこともできるが、人を辱めた者は滅びるであろう。
 たとえ苦しんでも瞋恚に陥らないようにするがよい。何人をも、行いや思いによって辱めぬようにするがよい。誰かに不快な思いをさせるような言葉は、吐かぬようにするがよい。なぜならそれは、すべて幸福達成の妨げとなるからである。
(「マヌの法典」)

日々の戒め(251)



汝ははたして汝のなすべきことをなしたか−それこそが実に大きな、重要な問題である。なぜなら汝の生の唯一の意味は、もっぱら、汝が己に与えられた短い生存の期間に、汝をこの世に遣わしたものの欲するところを行なうかどうかにあるからである。
(「タルムード」)

バッグ(パソコン入)の帰還−神の計画は成就する



私のバッグ(パソコン入)が無くなって、5日目のことだ。警察から一通の手紙がきた。

「あなたのものと思われるバッグを保管しています。中央署まで取りに来てください。」

ああっ、日本の警察ってなんて優秀なんだろう!被害届を出してまだ数日なのにもうバッグを発見したのだ。

私は朝の青汁しぼりを終えると、さっそく中央署に向かった。中身はどうなんだろうか、パソコンはだいじょうぶだろうか、現金は無くなってるだろうなぁ、なんてことを考えながら担当課の窓口に行く。


若い女性事務員が対応をしてくれた。最近の警察は感じがいいなぁ。


女性「落とし物ですか?通知に番号が書いてありましたか?はい、わかりました。すぐお返しできると思います。」

私「よかった!それ、盗られたんです。出てこないかと思ってたんです。」

女性「盗られたんですか?被害届は出しましたか?盗品となると刑事課でいったん調べますから、少しお待ちくださいね。今連絡してみますから。」

とにもかくにも良かった。呼んでもらうまで、待合いのいすに座って待つことにした。よく見ると、訳ありそうな男女数人がが座っている。昼間から警察に来るような人は、訳ありな人ばかりなんだろう。その中に混じって坐っている自分も、たぶん訳ありな人物に見えることだろう。

やがて10分が過ぎ、20分が過ぎ、ちっともお呼びがかからない!いったいどうなってるんだっ。

私「すみません。私、自営業をやってまして、店を開けなくちゃならないんですが、私の落とし物どうなったでしょうか?」

女性「じゃぁ、もう一度刑事課に連絡してみますから、もう少しお待ちください。」

あたりまえだっ。こんなに待たせておいて平気なのかっ!いわれる前に連絡しろっ!いやいや、腹を立てるな、警察の時間は善男善女の時間と進み方が違うのだ。ここで腹を立てたら、せっかく見つかったバッグが帰ってこなくなるとも限らない、あわてないあわてない(一休さんみたいだ)。

女性「あの、いま刑事課も忙しくてすぐにはできないみたいです。調べ終わったら刑事課から連絡します。」

警察ってところは、人を長い間待たせておいても何とも思わないらしい。忙しくてできないンだったら、最初からそう言えッての。こっちがなんにもいわなかったら、一日中訳ありの男性として待合いで待つことになっただろう。

いやいや、ここで腹を立てては、折角返してくれる気になったキツネ様の気分を損ねてしまう、あわてない、あわてない。今日のところは帰ろう。明日くらいには連絡が来るだろう。


しかし、三日たっても四日たっても、連絡は来ない。刑事課なんだから忙しいんだろうけど、心配だ。中に入っているもの全部取り出して指紋を採取してるのだろうか?それで時間がかかるのか?そもそも、パソコンは入っているのだろうか?現金は?あー、もうだめだ。刑事課に電話して聞いてみよう。

私「あの、私、バッグを盗られて、それで、落とし物で見つかったって連絡があって、それでぇー、取りに行ったら、被害届を出してあったので刑事課で調べるって、それでぇー、その時は忙しいので、また連絡をくれるってことでー、それで、連絡したんですが、えー、バッグはどうなったんでしょうか?(説明がめんどくさい!)」

警察の人「え?バッグですか?それは落とし物ですか?落とし物の係でこちらから連絡するって言ったんですか?」

私「そうですっ!」

刑事課の担当は、私のバッグのことを知らなかった。一体どうなってるんだろう。この何日かの間、すっと心配してたのに。きっと忙しいから時間がかかるんだって、自分に言い聞かせて、じっと待っていたのに…。今はじめて聞いたようなことを…。

警察の人「すぐに調書を作りますから、早くお返しできますから。30分くらいいただければ…。」

私「わかりました。すぐ欲しいので、30分くらいしたら伺います。ところで、パソコンは入ってました?


警察の人「パソコン?あっ、ちょっと聞いてみます。しばらくお待ちください。」

私「はいっ(聞いてみますって、落とし物の係でほっておかれたんだ!)。」

警察の人「あ、あります。あるそうです。」

私「わかりました。じゃぁ、30分くらいしたら、伺います。」

ひどいっ!ひどすぎるっ!この数日間はなんだったんだ!最近の警察は感じいいなんて思った自分が情けない。

とはいえ、パソコンも無事だしこんな有り難いことはない、それに、そもそも助手席にほったらかしておいた不注意の自分が悪い、と自分をなだめながら中央署に向かった。


中央署について、館内の表示を確認しながらエレベータに乗り、刑事課のあるフロアにおりてみると、さすがに雰囲気が違う。

昼間なのに薄暗い廊下には、サングラスをかけたチンピラ風の男性が二人、手をズボンのポケットに突っ込みながら、ぶつぶつ文句を言っている。刑事課ってのは、恐いところだ。バッグをほっておかれたことは許してあげよう。

刑事課のドアにある座席表で、電話で聞いた刑事の名前を確認しドアをノックすると、半分だけ開いたドアから坊主頭の刑事?が頭を出した。

刑事「どちら様ですか?」

私「○○といいます。先ほど電話したんですが、△△さんはいらっしゃいますか?」

刑事「ちょっと待って」

と言ってドアを閉める。さすが刑事課だ、中に入れてくれない。バッグをほっておいたことは許してあげよう。

しばらくして出てきたのは、若い女性だった。この人は刑事か?テレビドラマ「SP」に出てた真木よう子をもうちょっと若くして優しくした感じだ。

真木よう子似「おまたせしてすみません。すぐ、お返ししますから。」

私「ぜんぜんだいじょうぶです!出てきただけで、有り難いです。」

廊下の隅のテーブルにバッグをおいて、無くなってるものがないか確認してくださいという。中に何が入っていたかはっきり覚えていないが、どうも何一つ無くなっていないような感じだ。全部入ってる!

私「何時届けられたんですか?」

真木よう子似「13日の午前5時頃だそうです。拾ってくれた方は、お礼はいらないからといって名乗らなかったそうです。」

私「どこに落ちていたんですか?」

真木よう子似「追手町7丁目だそうです。心当たりはありますか?」

私「いえ、それ、どこです?」

真木よう子似「中央署の近くです。」

私「警察は近づかないようにしてるので来たことがないです。あっ、冗談ですけどね、は、ははっ。でも、現金がよく残ってましたねぇ」

真木よう子似「刑事課でも、なぜ持ってかなかったのかって不思議がっていました。」

私「やっぱり、普段の行いがいいんですかねぇ。」

真木よう子似「…。じゃぁ、お名前と押印をお願いします。」

私「はいっ!」

真木よう子似「じゃぁ、おかえししますので…。ほんとにお待たせしてすみませんでした。

私「ぜんぜんだいじょうぶです。ありがとうございました。」

最近の警察って、感じがいいなぁ。

こうして、私のバッグ(パソコン入・お気に入り)は戻ってきた。お金もパソコンも元のとおり入って戻ってきた。なぜ、犯人は内容物に手を付けなかったのか。ほんとは、わたしが夢遊病者のように街を徘徊し、中央署の裏においてきたのではないか。あるいは、おもしろい話を作るために私が仕組んだ狂言ではないのか。バッグのナゾは深まるばかりである。

だが私は、今回の件に関しては、われわれ人間には到底知ることのできない神の叡智が、この荒廃しきった日本の地に真の平和を実現する神の計画が深く関係していたと考えざるをえない。

日々の戒め(250)



われわれが現在の瞬間にやっていること以外、何一つ大事なものはない。
(トルストイ)

日々の戒め(249)



最も一般的な迷妄のひとつは、現在をもっとも切実で決定的瞬間だとは思わないことである。その日その日が一年のうちで一番良い日だということを、深く胆に銘ずるがよい。
(エスマン)

バッグ(パソコン入・お気に入り)の中身は何だ?



交番の脇に車を止めると、警察官が出てきた。車をじろじろ見ている。それからぐるりと車の周りをひとまわりすると、私の顔も見ずにひと言いいながら交番の中に戻っていった。

警察官「ロックした?また、盗られるよ」

私「おおーっ、ロックしなきゃ!」

しかし、後でよく考えてみると、交番の横に停めてあるんだぜ、それでも盗られちゃうの?なんとアブナイ社会であることだろうかっ。頭の回転の遅い私は、警察官の言うとおりに急いでロックをしたのであった(貴重品はもう盗られて無いのに…)。

それからすぐに、さっき現場検証をした警察官も戻ってきて、交番の中で調書の作成だ。

警察官「リュックサックの中には何が入ってました?」

私「リュックサック?リュックサックじゃないです。」

警察官「リュックサックじゃない?じゃ、なんていうの」

私「リュックサックじゃないです。えーとっ、だから、え〜、なんていうのか、その〜、」

警察官「リュックサックだね。」

私「まぁ、そうしときますかね。」

リュックサックと聞いて、子どもの頃の遠足で持たされた、あの、ビニールシートやお弁当やハンカチやティッシュなんかを入れた、あのリュックを思い出して、そうだとはいえないのだ。あれはリュックなんかじゃない!2万円もしたんだぞ!まぁ、せめて、バッグだ。

警察官「リュックの中には何が入ってましたか?」

私「えー、えっ?あれ?意外と思い出せないもんですねぇ。とにかく、パソコンと、…、接続コードと、あっ、そうそう、現金が入ってましたねぇ。現金だぁ」

警察官「パソコン1台?いくらくらいです?金額にすると?」

私「あれはねぇ、高かったんですよ。ソニーのバイオですけどね。当時、20万以上したんですよ。う〜、もう戻ってこないかなぁ。データだけでも戻ってくればなぁ」

警察官「現在の価値ではいくらくらいですか?」

私「いくらだろう?10万円はするなっ」

警察官「10万円ですか?もっと安くないですか?」

私「むっ、あれ高かったんですよ。テレビチューナーも付いてるし、バイオですよっ。画面もきれいだし、え〜、10万円はすると思うなっ。」

警察官「パソコン1台、10万円相当(調書に書き込む)」

私「意外と安いのかなぁ、8万円くらい?」

警察官「現金はいくらありました?」(無視だ!)

私「え?いくらだろう?3万円くらいかな?あの、小銭です。釣り銭用なんですけど、小銭ばっかりです。500円玉がぁ、1、2、3、…、(500円玉10個のまとまりをいくつか思い出そうとしている)2万円くらいかな、それで、100円玉がぁ、1、2、3、4、…、5千円くらいかな、それから50円玉がぁ、1、2、3、…、え〜、いくらだろう?」

警察官「2万5千円くらいですか?」

私「いや〜、いくらかな?3万円くらいかなぁ」

警察官「現金3万円(調書に書き込む)」

私「でもなぁ、コインケース一杯じゃないからな、2万五千円くらいかな?」

警察官「あとは何が入ってました?」(無視だ!)

こうして夜の交番でのやりとりは,延々と続いていくのであった。私は大切なバッグ(パソコン入・お気に入り)を盗られて途方に暮れながらも(実際は盗られたということの実感が湧かず、あまり困った様子ではない)、初めての経験を楽しんでいるかのようである。

日々の戒め(248)



現在に対して注意深くあれ。われわれは現在のなかにのみ永遠を認識する。
(トルストイ)

日々の戒め(247)



われわれが過去に苦しみ、未来を損なっているのは、ひとえに現在をおろそかにしているからである。過去と未来−それは幻想であり、現在だけが唯一の実在なのだ。
(トルストイ)