萩原朔太郎(16)



夜汽車

有明のうすらあかりは
硝子戸に指のあとつめたく
ほの白みゆく山の端は
みづがねのごとくにしめやかなれども
まだ旅びとのねむりさめやらねば
つかれたる電燈のためいきばかりこちたしや。
あまたるきにすにすのにほひも
そこはかとなきはまきたばこの烟さへ
夜汽車にてあれたる舌には侘しきを
いかばかり人妻は身にひきつめて嘆くらむ。
まだ山科は過ぎずや
空氣まくらの口金をゆるめて
そつと息をぬいてみる女ごころ
ふと二人かなしさに身をすりよせ
しののめちかき汽車の窓より外をながむれば
ところもしらぬ山里に
さも白く咲きてゐたるをだまきの花。

日々の戒め(64)


photo by yoshihiro ohmura

叡智とは多くを知ることではない。われわれは何もかもを知るわけにはゆかない。叡智とはなるべくたくさん知ることではなくて、どんなのが一番必要な知識で、どんなのがそうまで必要でなく、どんなのが最も必要でないかを知ることである。人間に必要な知識の中でも最も大事なのは、いかにして良く生きるかについての、つまり、いかにしてなるべく悪を行なわず、なるべく善を行なって暮らすようにするか、についての知識である。現代の人々はいろんな無駄なことは研究するけれど、この一番大事なことだけは学ぼうとしない。
(トルストイ)

路上喫煙等被害防止条例(静岡市)



静岡市では、先月の10月1日から歩きたばこを禁止する条例が施行されています。禁止の区域は呉服町商店街や七間町商店街など1.3キロで、たばこの火が当たる危険性や副流煙被害が起きやすい場所を考慮して決められたそうです。来年4月からは、違反者は過料2000円が徴収されるとか。愛煙家には住みにくい世の中になったものです。私はといえば、もう10年以上前に止めまして、今ではすっかり健康体になりました。でも、たばこほど、ここ何年かで悪者になったものはないですね。子どもの頃は、たばこは大人の証みたいなものに思えて、父親をはじめとした大人たちが吸う姿を見て、あこがれに近い思いをもっていたように思います。映画やテレビでも、渋い男性俳優や美しい女性が吸う姿を映していました。たばこを吸う姿の向こう側には、大人にしかわからない苦悩があり、哀しみがありました。今では、たばこを吸う人は、自分の健康を管理できないばかりか、他人の迷惑を顧みない悪者になってしまいました。社会の変化はとても早いものです。諸行無常の響きあり。南無阿弥陀仏…。

萩原朔太郎(15)




孤独

田舎の白つぽい道ばたで、
つかれた馬のこころが、
ひからびた日向の草をみつめてゐる、
ななめに、しのしのとほそくもえる、
ふるへるさびしい草をみつめる。

田舎のさびしい日向に立つて、
おまへはなにを視てゐるのか、
ふるへる、わたしの孤独のたましひよ。

このほこりつぽい風景の顔に、
うすく涙がながれてゐる。

日々の戒め(63)


photo by yoshihiro ohmura

出くわす全てのことについて、
楽しく、清い若い心をもって
教えを受け、祝福されてあるように!
それがいつまでも君の利益となるように。
(ゲーテ)

萩原朔太郎(14)



天景

しづかにきしれ四輪馬車、
ほのかに海はあかるみて、
麦は遠きにながれたり、
しづかにきしれ四輪馬車。
光る魚鳥の天景を、
また窓青き建築を、
しづかにきしれ四輪馬車。

日々の戒め(62)


photo by yoshihiro ohmura

叡智は無限である。叡智に向かって進めば進むほど、それはますます必要になってくる。人間には無限の向上が可能である。
(トルストイ)

静岡市役所本館その2



前回で静岡市役所本館は終わりのつもりでしたが、塔の上のドームがあまり綺麗に写っていませんでしたので、改めてご紹介します。前回は県庁側から撮った写真でしたが、これは裏側から撮ったものです。やはり正面から見た姿が美しいのですが、私はへそ曲がりなので、裏側から見たドームが好きです。以前この本館裏側にマッターホルンという喫茶店があって、私は昼休みによく珈琲を飲みながらのこのドームをぼーっと見ていました。晴れた日には、青い空を背景にしたドームに金色の光が反射して、いつまで見ていても飽きませんでした。残念ながら、マッターホルンは現在は場所を変え、その場所は若い人が着る服を売る店になってしまいました(私みたいなおじさんには、なんの役にも立たないじゃないかぁーっ!)。残念です。

萩原朔太郎(14)



見しらぬ犬

この見もしらぬ犬が私のあとをついてくる、
みすぼらしい、後足でびつこをひいてゐる不具の犬のかげだ。

ああ、わたしはどこへ行くのか知らない、
わたしのゆく道路の方角では、
長屋の家根がべらべらと風にふかれてゐる、
道ばたの陰気な空地では、
ひからびた草の葉つぱがしなしなとほそくうごいて居る。

ああ、わたしはどこへ行くのか知らない、
おほきな、いきもののやうな月が、ぼんやりと行手に浮んでゐる、
さうして背後のさびしい往来では、
犬のほそながい尻尾の先が地べたの上をひきずつて居る。

ああ、どこまでも、どこまでも、
この見もしらぬ犬が私のあとをついてくる、
きたならしい地べたを這ひまはつて、
わたしの背後で後足をひきずつてゐる病気の犬だ、
とほく、ながく、かなしげにおびえながら、
さびしい空の月に向つて遠白く吠えるふしあはせの犬のかげだ。

日々の戒め(61)


photo by yoshihiro ohmura

時を短くするのは何か?
活動!
時を耐え難くするのは何か?
遊惰!
負債におとしいれるのは何か?
手をこまねいて待つこと!
利益を得させるのは何か?
長く思案せぬこと!
名誉に導くのは何か?
おのれを守ること!
(ゲーテ)