日々の戒め(53)



賢くなろうと思ったら、賢い質問をし、注意深く聞き、落ち着いて答え、言うことがなくなったら黙るがよい。
(ラファエル)

富士山初冠雪



先日の日曜日、愛犬ラッキーの散歩中にみた富士山です。頂上のあたりがちょろっと白くなっているのが見えました。普段は特別富士山を気にして見てるわけではないですが、何故かこのときは気になったんです。「頂上が白いと言うことは…、雪かぁ。ひょっとして初冠雪か?」と、独り言。あとでニュースを見ると、やっぱり初冠雪であるらしい。そのときの富士山は、どことなく、初めてのお化粧の初々しさというか…、清々しさというか…、特別な光の反射だったような気がします。そう言うのって、あると思いませんか?まだ夏の記憶もわずかに残っているくらいなのに、富士山の上の方ではもう冬。秋も始まったばかりと思っていても、冬はひそかにその陣地を広げつつあるようです。

萩原朔太郎(5)



 沖を眺望する

ここの海岸には草も生えない
なんといふさびしい海岸だ
かうしてしづかに浪を見てゐると
浪の上に浪がかさなり
浪の上に白い夕方の月がうかんでくるやうだ
ただひとり出でて磯馴れ松の木をながめ
空にうかべる島と船とをながめ
私はながく手足をのばして寢ころんでゐる
ながく呼べどもかへらざる幸福のかげをもとめ
沖に向つて眺望する。

日々の戒め(52)


photo by yoshihiro ohmura

慣れようと思うなら、
よいこと、美しいことになれよ。
正しいことだけをなせ。
結局、劣悪なものは屈従し、仕えるようになる。
(ゲーテ)

萩原朔太郎(4)


photo by yoshihiro ohmura

 野原に寢る

この感情の伸びてゆくありさま
まつすぐに伸びてゆく喬木のやうに
いのちの芽生のぐんぐんとのびる。
そこの青空へもせいのびをすればとどくやうに
せいも高くなり胸はばもひろくなつた。
たいそううららかな春の空氣をすひこんで
小鳥たちが喰べものをたべるやうに
愉快で口をひらいてかはゆらしく
どんなにいのちの芽生たちが伸びてゆくことか。
草木は草木でいつさいに
ああ どんなにぐんぐんと伸びてゆくことか。
ひろびろとした野原にねころんで
まことに愉快な夢をみつづけた。

日々の戒め(51)



実質的には、自分自身の内に根ざした思想のみに真実と生命とがあり、本当の意味で、われわれに理解できるのはただそれだけである。書物で読んだ他人の思想などは−言ってみれば他人の食卓の上の残飯であり、外国人からの借り衣装である。
(ショーペンハウエル)

萩原朔太郎(3)



 月夜

重たいおほきな羽をばたばたして
ああ なんといふ弱弱しい心臟の所有者だ。
花瓦斯のやうな明るい月夜に
白くながれてゆく生物の群をみよ
そのしづかな方角をみよ
この生物のもつひとつのせつなる情緒をみよ
あかるい花瓦斯のやうな月夜に
ああ なんといふ悲しげな いぢらしい蝶類の騷擾だ。

日々の戒め(50)


photo by yoshihiro ohmura

もし物事が我欲を離れ、我意を離れてなされるならば、何もかも容易に、何もかもうまく行なわれるであろう。
(トルストイ)

駿府城内堀で餌を求めて…



「駿府城内堀のハクチョウです。最近餌が足りなくて…。辰巳櫓の見物客がにやにやしてこっちをみてるんで、餌でもくれるのかと思って二人して来てみりゃ、やっぱりにやにやしているだけでなんにもくれやしない。そのうち写真をぱちぱち撮り始めて、「へぇー、」とか「おおー」とか言い出して…。餌くれないなら早く帰ってくれよなぁ。うちの連れ合いなんて、腹減ってしょうがないから、水の中に顔突っこみっぱなしです、はい。景気が悪いのか、お堀が汚れるからなのか、よくわからないけど近頃の人は餌くれないね。餌くれりゃ、鯉と一緒に堀が汚れないようにきれーいに食ってやるっての。おーい、誰かぁ、餌をおくれよぉ〜。」

萩原朔太郎(2)


photo by yoshihiro ohmura

 青猫

この美しい都會を愛するのはよいことだ
この美しい都會の建築を愛するのはよいことだ
すべてのやさしい女性をもとめるために
すべての高貴な生活をもとめるために
この都にきて賑やかな街路を通るのはよいことだ
街路にそうて立つ櫻の竝木
そこにも無數の雀がさへづつてゐるではないか。

ああ このおほきな都會の夜にねむれるものは
ただ一疋の青い猫のかげだ
かなしい人類の歴史を語る猫のかげだ
われの求めてやまざる幸福の青い影だ。
いかならん影をもとめて
みぞれふる日にもわれは東京を戀しと思ひしに
そこの裏町の壁にさむくもたれてゐる
このひとのごとき乞食はなにの夢を夢みて居るのか。